松柏の如く強かに

故郷の市内から眺められる山々は濃い緑で生い茂り、季節の移り変わりは山の色に顕著に染み出る。一方、ここノルウェー北極圏の山々は荒涼としており、多くは土の層が薄く岩が剥き出しになっている。

それもそのはずである。真冬は氷点下三十度にまで冷えきるこの大地で、草木が生き延びるのは容易くない。岩は雪で覆われ、苔が雪中で春の日の出を待ちわびる。トナカイは果敢に顔面を突っ込んで苔をほじくり返す。屈狸がトナカイに噛み付く。北極の冬は長く暗く過酷である。オーロラは食物連鎖への全ての貢献者に鎮魂曲を捧げるかように、色を変え長さを変え揺らぎ、光を奏でる。

生の連鎖の喧噪に頰被りするかの如く、ただじっと緑を濃くしているのが松柏である。他に依存せず、生に執着することなく悠々と生き延びる。故郷で見た姿のまま、ここでも立ち尽くしている。

 

子曰く、「寒くして、然る後に松柏の彫むに後るるを知るなり」と。『論語』子罕第九

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